大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

金沢家庭裁判所 昭和32年(家イ)105号 命令

申立人 広岡照夫(仮名)

相手方 広岡春江(仮名)

主文

申立人は本件調停の終了にいたるまで申立人保管にかかる相手方の署名押印ある申立人に対する離婚届を○○市役所に提出してはならない。

正当の事由がなくこの命令に従わないときは五千円以下の過料に処する。

(家事審判官 斎藤直次郎 調停委員 今島廉蔵 調停委員 日野智恵子)

参照

(事件の概要経過)

一、申立の趣旨及その実情は別紙申立書写の通り。

一、当事者は昭和三二年七月二六日第一回調停期日に出頭申立人は申立書の通り陳述し相手方は申立理由のような相手方不貞の事実のないこと、離婚の意思のないことを申し述べた。調停委員会は申立人に再考慮を促すと共に相手方に対しても申立人の意思に副う余地がないかどうか考慮を促して続行した。

処が第二回期日には相手方のみしか出頭せず相手方はどうしても離婚はしたくないこと、不貞の事実のないことを申述べた後、申立人が前回の調停期日後に相手方の寄留先へ来て相手方に対して「お前の素行が改つたら一年後に再婚してやる今は人目がうるさいから離婚をしてくれ、今お前が印を押さなければきつと悪い結果になる」等々と申し向けて半ば強制的に協議離婚届書に署名押印をさせ、その届書を持去つたと云う事実を明かにした、調停委員会はその届書がいまだ申立人の手もとにあり届出は済まされていない事実を確めた後急遽調停前の仮の処分となつたものである。申立人側は仮の処分を遵守し調停を進めたがその後二回の期日を経て離婚の調停が成立したのである。

別紙(離婚調停申立書)

申立の趣旨(略)

申立の理由

一、申立人は昭和二十六年七月被申立人と見合をなし、将来を固く誓つて同年十月結婚式を挙げ、結婚式を挙げると同時に入籍手続を済ませ同棲生活に入り被申立人において最近家出するまで同棲を続けて来た。

二、申立人は市立工業を卒業し、現在株式会社○○工業に勤務し、月収約二万円の悉くを妻である被申立人に与えて家計一切を委せ今日に至つたものである。

三、被申立人は○○銀行に勤めていたこともあるが、同銀行を退職した後一時○○○○○○の事務員を勤めていた際すすめる人があつたので申立人と結婚し、結婚と同時に同○○○○を辞して家庭生活に入つた。

四、夫婦間に昭和二十七年七月○○日生れの長女と同三十年一月○○日生れの長男の二児があるも、被申立人は生来の多情多淫な女性で結婚後左の如き幾多の不貞行為があつた。

1 昭和二十八年より同二十九年初頃までの間○○○○○○○○○製作所に住込み勤務する中村正なる者と懇ろとなり夫の目を盗んで夫照夫の不在留守中右中村を自宅に引入れ表戸に鍵をかけて酒肴を振舞つて共に遊楽に耽り居たことが再三あつた。このことは申立人の単なる憶測にあらず○○製作所主人中野繁夫に現場を押えられて注意を受けた証拠歴然としている事実があるのみならず当時被申立人は申立人に対し今迄の不行跡の一切を告白して今後斯る不貞行為は絶対慎しむと泣いて謝罪したので子供もあることであつたから我慢をしてこれを宥恕した。

2 ところが、本年五年上旬頃よりかつて結婚前から交遊関係にあつた○○に運転手として勤務する杉下昌一当二十八才と再度の交際を始め、夫照夫の目を忍んで右杉下と逢瀬を続けていたもので、殊に六月○○日の日曜日には被申立人は申立人に対して洋服の寸法を合せに行つて来ると称し、夫に子供を委ねて外出したのであるが、その後判明したところによると右杉下と共に自動車で○○○へ遊びに行つた事実があり、又五月中一度同じ口実で外出し無断外泊したこともあつた。

3、又申立人は六月二十七日より七月九日夕方まで社用で広島に出張していたものであるが、その出張不在中男を自宅に引入れていた事実があり、近所の商家のおかみの言によれば朝夕男が申立人方に出入していたとのことである。

右の事実は申立人が出張先から帰つた後、○町三丁目のすし好し方へ行つた際、同店のおかみが不用意に申立人に対し「今月初め夜十二時頃御宅の奥さんから今主人が出張先から帰つたのですしと御酒を届けて呉れと注文があつて御届けしたのだが」と洩らした事実からも十分に窺はれるところで、申立人の出張不在中如何なることをなしていたか思い中ばに過ぎるものがある。

4、被申立人は申立人が出張先から帰へる前日の七月八日盲腸を患い○○病院へ入院したものであるが、その入院の際も○○の用事で○○へ出張していた前記杉下へ電話を掛け、杉下は○○からハイヤーで申立人の家まで乗りつけそのハイヤーに被申立人は同乗して入院したことも判明した。

5、被申立人は七月○○日○○病院を退院し、自宅へ一度帰つたが病後の保養のため○○温泉へやつて呉れとのことであつたが、退院早々無理なる旨諭したが尚をも聞き入れぬので、それ程○○へ行たければ一緒について行つてやると云つたところ一人で行きたいのやと云つて拒んだため遂に夫婦喧嘩となつて被申立人は夫を棄てて無断家出をして仕舞つた。

6、次いで翌十四日午後三時頃申立人の不在中、被申立人は申立人方へ無断で鍵を壊して立入つて自分の衣類を纒めて持ち出して仕舞つた。

五、以上の如く被申立人において同居に堪えない不貞行為があり申立人は今迄忍び難きを忍んで来たのである、今後円満なる結婚生活を続けることは到底不可能であるから諸般の事情を斟酌し離婚の調停を賜りたく本申立に及んだ。

六、申立人の右事実の陳述は決して誇張ではなく、被申立人の姉すらこれを認めるところであり、その他幾多の証人も存在するので適宜それ等の人を参考人として御喚問願う考えである。

因に子供は目下被申立人の姉藤田和子に面倒をみて貰つている状態である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例